第10章 別れ
別れるとか、事情を話すとか、同意とか、あたしが幸せそうにしてたとか。今までの会話の流れと、この1年の悟くんと五条家の行動を繋げてみる。頭の中は既にキャパオーバーだ。うまく考えがまとまらない。
「夕凪は鈍いけど」
さっき悟くんが言った言葉が脳をかすめる。これまでも、悟くんはあたしに似たような事を言ってきた。
鈍感すぎる
ほんと鈍い奴
……。
あたしは、とんでもない勘違いをしていたかもしれない。ポジティブ妄想に頭を奪われていて、全く読み取れていなかった。
五条家があんなにあたしに温かくしてくれていたのは、円満に別れて欲しいっていうサインだったんじゃ?
この1年、思い出を作ってくれていたんじゃ? あたしは悟くんの子供時代の遊び相手だったから、特別だったから、最後にとびっきりの待遇をしてくれたんだ。
気づけよな
悟くんは、この1年ずっとそう思っていたのかな? 全く気がつかなかった。ずっと居座ってた、彼女の座に。調子に乗ってた、ただの使用人の娘なのに。手切金なんてあたしは受け取らないと思って、それで高価な着物をくれたんだ。
胸の奥から悲しみと絶望が高波のように押し寄せて、それにのまれる。
鈍感で気が付かなくて、あたしは悟くんに「婚約者ってひょっとしてあたし?」なんてまぬけな質問をしてしまった。
いたたまれなくて、この世界の色素が全て抜けてしまったかのように周りがモノクロに見える。何もかも夢想だったんだ。