第6章 キスの味
「あの、随分と待たせちゃってごめん。悟くんとの事だけど……あたし、五条家には迷惑かけられない。だから悟くんの18歳の誕生日が来て婚約者の事がわかるまで、何も言わずにいちゃ駄目?」
返事をここまで延ばすなんて何かあるに違いないし、それは五条の家絡みじゃないかっていう気はしてたけど、まさにその通りで。
夕凪は、自分の事より五条の事を、本家の事を優先していた。折角、高専に来たのに、夕凪は何も手に入れようとしねぇ。それは俺の事だけじゃない。呪術師として力をつけるのは夕凪にとって大切な基盤になる。呪術界は強者である事のメリットが大きい。五条家で俺といるためにもオマエが気にしてる遺言うんぬんの為にも強くなってほしいけど、夕凪はどこまでそれを自分の意思で選択してんだ?
「もっと夕凪は貪欲になったら? そんなんじゃ何も手に入んないよ。呪術も強くならねぇ。わかりもしない未来に怯えて何もせず、今を大事にしない生き方してたら後悔するよ」
「あたしは、ただ周りに迷惑かけたくないだけなの。悟くんも含めて大切な人をわがままで振り回したくないの」
「わがままねぇ……欲しいものを欲しいっていうのはわがままなのか? それを手に入れるために今を選択して生きてんじゃねーの? 夕凪は何で高専に来たの? 俺に言われたから来たの?」
夕凪は言葉に詰まったようだった。個別指導の時間は終わりだ。後は夕凪が自分で手に入れたいものを欲しがって求めるしかない。俺は教室を出た。