第6章 キスの味
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夕凪の返事を聞いて、ちょっとコイツの事が面倒くさくなってる。もう夕凪の事は諦めようかとも一瞬考えた。なんせ頭がカッチカチだから、俺とはタイプが違うんだろ。
野球で例えるなら俺はホームランを狙ってわかりやすく勝ちを取りに行くけど、あいつは犠牲フライなのか、ただのフライなのか、どっちつかずの球を打ち上げて、勝ちたいのか勝ちたくないのかよくわからないようなタイプ。ただ知識だけはあって、ランナーが3塁、1アウトなら犠牲フライで点が入るんでしょ、わかってる! とかいう感じ。
遺言が開示される1年半先まで、なんもしねぇでただ待つとか性に合わねー。しかもその遺言が開示されたところで、夕凪が俺と一緒にいる事を選ぶかどうかなんてわかんねーだろ?
「五条家が……悟くんの将来が……」
うじうじと喋ってる夕凪が目に浮かぶ。
こんな夕凪と俺はうまくやっていけんのか?
こんなのずっと先までやってらんねーわ。
今は会いたい気持ちにもならない。夕凪の事はいったん頭から切り離してたんたんと術式を磨くことにした。
反転術式も興味あるけど硝子が言ってることはサッパリ意味わかんねぇ。ひゅーひょいって何だよ。赫も全然できねぇ。もうちょっとな気はするんだけどな。
無下限を持続的に継続させて限界値まで持ってくればなんか見えるもんでもあるかなぁと思い試してみた。
さすがに脳が疲労したみたいだ。実習中に目眩を感じて寮に戻り熱をはかると38度と表示されている。別に動けねぇこともないけど、寮長に体温計をのぞかれて、次の日は高専を休んだ。