第6章 キスの味
夏油先輩と家入先輩が少し離れてあたし達の近くに立ってた。2人は今回の任務の事を報告しあっているようだ。
あたしと悟くんとふたりっきりってわけじゃない。こんなの、こんな場所で、こんな時に言うことじゃないかもしれない。先輩達に聞こえるかも見られるかもしれない。
でも、そんなのどうでもよかった。ただあたしは今すぐ伝えたかった。
「悟くん」
「ん?」
「あたし、悟くんが好き、大好き。遺言開示まで気持ちを言わないなんてそんな事言って黙って、返事を先延ばししてごめんなさい。あたしが間違ってた」
「夕凪?」
いきなり迷惑だった? 疲れて帰ってきたのにごめんなさい。折角、あの時、悟くんの部屋に2人でいた時、あたしの気持ちを優先してくれたのに、勝手な事言ってごめんなさい。
でもあたし、ただこうやって話せる事が嬉しいの。悟くんがそこに立ってるだけで幸せで、どうしても好きって言いたいの。
「あなたの事を愛しています。あたしと、夕凪と付き合ってもらえますか?」
「……本心だよな? あん時はどうかしてた、とか気の迷いだった、とか後で訂正してきても聞かねぇからな」
悟くんらしい返事が返ってきて、目の前にいるのは悟くんなんだと再認識する。亡霊なんかじゃなく本物なんだって気がする。少し鼻をすすった。
「じゃあ、言わないように、何も言えないように今すぐあたしの唇を塞いで。悟くんが欲しいの、悟くんに触れたいの……悟くん、キスして」
「……まさか夕凪がそんな事言うなんてな」
見つめ合う視線はそのままで、悟くんの上体が折り曲がり、ぐっとあたしに近づいた。ゆっくりと、ではなく急速に悟くんはあたしの顔に向かって角度を調整してきて、目を瞑るのとほぼ同時にあたしの唇に触れた。