第6章 キスの味
「生きてなかったら、オマエの目の前にいる俺は夕凪の苦手なお化けって事になるよな」
口が動いて、頰にふれてるあたしの手に大好きな人の手が重ねられる。何度か触れたことのある感触。あたしより大きくて少し角ばった指。
――悟くんが生きてる
さっき、散々泣きつくして枯れたと思っていた涙が再び溢れ出す。体中の水分が抜け出てしまうんじゃないかと思うほどに次々と流れ出る。
「悟くん、悟くん」
名前を呼ぶと頭を髪をぐしゃっと上から触られた。
「どうなったの? 殺されたって聞いて、あたし、それで……」
「実際、死にかけた。けどそんとき、オマエのこと思い出して、俺は一切の反撃を止めて、全神経を反転術式へと注ぎ込んだ。夕凪にこんな呪いかけられたまま死んだら、俺、怨霊に転じてずっと成仏できねーからな」
悟くんが手を開いて呪いって言った小さな紙をあたしに見せる。
”悟くん死なないで”
悟くんが高専に行く時にあたしがお守りの中にいれた薄紙だ。悟くんの無事を願いながら文字を書いた。
「悟くん、まだ信じられない。反転術式?」
「あぁ、出来たのは初めてだ。それだけじゃねぇ。赫とこないだ話してた虚式、茈も完成した」
さっき感じた空気中の衝撃波の分子は悟くんの術式だったみたいだ。すさまじい破壊力。この人は本当に最強に成ったんだ。
「あたし、何も出来なかった。近くにいたのに、高専に来たのに……何も出来なくて、守れなくてごめん」
「いや、オマエの呪力も少しは効いたんじゃねぇかな。胸、刺された時、このお守りが防いでる間に内蔵を避けたから。サンキュな。この制服はもう着れねーけど」
「また作るよ、またお守り縫いつける。そんなの何回でもやる」
「何回もって、もう二度とこんなのはごめんだ」
悟くんは疲れてるだろうにあたしと話をして安心させようとしてるんだろう。笑ってくれてる。それが伝わって、ただただ胸が苦しい。