第6章 キスの味
あたしは間違ってた。
悟くんは、あたしに向かってきてくれてたのに。勇気を出して踏み込んでくれたのに。五条家の使用人の娘だって、勝手に自分で枠を作ってそこに閉じこもってた。
悟くんと一緒に作る未来を考えようとしなかった。悟くんは熱まで出して、赫を完成させようとしてて、今の不利な状況を、未来を変えようとしてくれてたのに。
あたしは、いったい何やってたんだろ……。
「欲しいものを欲しいっていうのはわがままなのか? それを手に入れるために今を選択して生きてんじゃねーの? 夕凪は何で高専に来たの?」
悟くん、
悟くん、、
悟くん、、、
ただ名前を呼ぶ。
あたしは今、悟くんが欲しい。どうしても欲しい。ぜんぜん優等生じゃないけど、真っ黒に染まるかもしれないけどあたしはその人生を選択したい。
悟くんに会いたい……。
夏油先輩を襲った侵入者は高専外に出たようだという情報を受けて家入先輩があたしを屋外に連れて出た。
冷静に、あたしも術師として、そいつを追わなければならないかもしれない。いつ指示が来てもおかしくない。
夏の生暖かい風が吹く。気のせいか血の匂いが混じっているような風。あたしの持ってる術式は空気中の分子や原子を司る。遠くに今まで感じたことのない分子が存在しているのを感じた。風の流れでそれが乗ってくる。
呪力を使った痕跡が感じられる。規格外の衝撃波が起こったような残留物。
なんだろ、これ。悟くんの蒼に似ているけど違う。夏油先輩を襲った術師殺しの攻撃かな? でもそいつは呪力が0だって言ってた。術式が使えないのにこんな衝撃波を起こすことは出来ないだろう。