第14章 花爛漫
通されたのは、教団の格式ある客間だった。
童磨は上座に座っているものの、その装いは教祖の法衣ではなく、白地に薄い金色の紋が入った、控えめながらも上質な着物姿。
静代と宗一郎、梅子は童磨の前に着座し、菖蒲の療養の場を提供し、完治するまでの看病に貢献したことに頭を下げた。
「童磨殿、お初にお目にかかります。新しく家元となりました、藤本宗一郎と申します。この度は、菖蒲様へ献身的なご支援を賜りましたこと、心より感謝申し上げます。」
「俺は場所を提供しているに過ぎない。気にすることなく話すといい」
感情なしの社交辞令。
笑みを張り付けた仮面の下は、真意を逃さぬよう探りを怠らない。
実田は、今回の件も療養に関しても一連の責任を負う者として童磨に語りかけた。
「童磨様のご配慮により、我々も公にせず、再興への道筋を作ることができました。快気祝いの宴でも、どうぞ菖蒲様の最も近くの席にて、ゆっくりとお寛ぎください」
「俺は控えの席でいいのだろう?華雅流には関わるつもりはないからね。菖蒲もこちらでは、教徒として置くつもりもない。
ただ、菖蒲の生活拠点は今と変わらず、この寺院の本殿。即ち、俺の下にある」
「心得ております」
「ならばよい」
静代の淀みのない返答に少しばかり警戒を解き、満足したかのように微笑んで見せた。
宗一郎も菖蒲に対しての言葉として、誠心誠意を尽くす。
「菖蒲様が、あの家元の仕打ちの中、懸命に流派を再建しようという姿を目の前で見てきました。ですから、その想いは決して無下にすることなく私の方でつないでまいります。
あの時の御心労や、今まで貢献されてきた分、菖蒲様にはしっかり幸せになっていただかなくては、我々に罰が当たってしまいます」
「それは、俺からもよろしく頼みたい」
話し合いは、宗一郎を主導に滞りなく進んだ。
宗一郎は、華雅流の古い悪しき慣習を廃し、より開かれた流派にするという、菖蒲の願いに沿った再興計画を熱く語る。
梅子も宗一郎の妻として、稽古場の準備や門弟への連絡といった、実務的な側面から彼を支えることを表明した。
最初に宣言したように、菖蒲の意見や意思も積極的に聞いては確認しながら、再興計画はどんどん形になっていった。