第14章 花爛漫
話がひと段落すると、静代が「お手洗いをお借りしたい」と松乃の案内の下静かに席を立った。
それに引き続き、童磨が別の戸から出たところで回り込み、静代を呼び止める。
「静代殿。念のための確認だ。俺を宴に『是非に』と招いた真意は、本当に『感謝からの招待』なのかな?」
静代は一瞬ひるんだが、すぐに冷静な表情を取り戻した。
「それ以外にございません。何をご懸念されているのでしょうか」
童磨は、いつもの笑顔のまま、醸し出す気を暗く冷たくしていく。
それでも、他意がないことを示すように、恐怖を押し殺して平然を装い、その警戒する眼差しを射抜くように見て言葉を待った。
「俺は、菖蒲ちゃんにすこぶる甘いのは自覚しているんだ。彼女の悲しむことの延長上に静代殿や実田殿、『新しい華雅流』とその関係者の命がある事を忘れてはいけないよ」
静代は、彼の遠回しな脅迫を正面から受け止めた上で、強い意志を込めて語った。
「私は、ただ、純粋に、あの子の幸せを願っております。
あの一件だけではありません。あの子は、幼いころからいろいろ苦労を自らしょい込んでしまう性格だったのです」
「それは華雅流のためにかい?」
「そのほかの事も、あの子が守りたいと思っている者に対してはそうでした」
静代は、静かに結論を述べた。
「だからこそ、今度は、自ら選んだ『菖蒲本人が本人の意思で選んだ本能から望む幸せ』を突き進んで欲しい…。ただそれだけなのです」
静代の眼差しや声色から、菖蒲が言っていたように『感謝』以外の他意がないことを確認できたのか、威圧は収まり、満足気に安堵の表情を見せた。
「ならば、宴に喜んで参加させてもらうよ。
くれぐれも、菖蒲が悲しむ行動を俺が取らずとも良いようにしておくれ」
「承知いたしております」
静代は深く頭を下げて、松乃と共にその場を後にした。