第14章 花爛漫
その菖蒲を隠れ家に匿い、献身的に看病した人物の存在とあらば、彼らにとってむしろ歓迎すべき支援者だ。
松乃は、童磨の意図を察し、安堵の息を漏らした。この場所で、教祖・童磨の存在が公になることは、あらゆる意味で危険だったからだ。
「承知いたしました。童磨様のお心遣い、静代様にもお伝えします」
そして、5日後。
実田の手配により、静子と新しい家元夫妻が寺院に訪れる。
新しい家元は、菖蒲ももちろん知っていた人物で、藤本宗一郎という。
彼は高弟としては類稀なやり手であり、その聡明さと人柄の良さから流派外にも人脈が厚い。それ故に、宗一郎こそが一番、元の家元(鶴之丞)に反感を買い、不遇を受けてきた人物だった。
「藤本宗一郎と申します。菖蒲様。この度はお目にかかれて光栄です。貴女が命を懸けて守られた神楽舞踊”華雅流”を、この宗一郎、家元として精一杯務めさせていただきます」
「あなたが後に続いてくださると知り、凄く光栄に思っております」
「そして、ご紹介する機会を失くしておりましたが…」
その横に並んで頭を下げた人物に気づくと菖蒲は驚きとともに喜びで満たされた。
「梅子さん…!あなた…!」
「菖蒲さん!よくご無事で!凄く心配したのよ!」
梅子は、菖蒲が涙を浮かべた瞬間、立場を忘れ、駆け寄ってその手を握りしめた。
再会を喜び、互いに涙を流しながら抱擁を交わすのを宗一郎も静代も静かに見守った。
ひとしきり抱擁を交わすと、梅子は涙ぐみながら、菖蒲の背後に静かに控える松乃の姿を一瞬見ると、すぐに表情を引き締め、静代殿の元へと戻る。
「藤本宗一郎の妻の梅子と申します。菖蒲さんの後を懸命に繋いでいく所存です」
「梅子さんでしたら、立派に務まると思っております。どうかよろしくお願いいたします」
「さぁ、立ち話もなんでしょうから、どうぞ中へ…
童磨様もお待ちです」
松乃の後に続き、本堂へと向かう。
宗一郎は物珍しそうにあたりを見回した。