• テキストサイズ

極楽浄土【鬼滅の刃/童磨】

第10章 凍土の胎動



建物の最上部、最も高台にある一際大きな本堂と思しき場所からは、虹色の光が差し込んでいるようにも見え、静代は、これから対面する人物の異様さを改めて肌で感じた。

「参りましょう、静代殿。これ以上の躊躇は、菖蒲さんの命を縮めるだけだ」

実田は静代を促し、門前で待つ教団の信者たちへと歩みを進めた。


「急におしかけてしまって申し訳ない。万世極楽教の教祖殿とお話があって来たのだが、お会いすることは可能かな?」

「教祖様は昼はお休みになっておりますが…。お名前をお聞かせ願います」

「実田伸介が菖蒲の事で相談があると…、あぁ、まずいつもいらっしゃるお付きの方に先にお会いしたい」

菖蒲と名前を聞いてからか、門番は目を見開いて、慌てて中に入っていった。

「門番の方でも、あの子の事をよくご存じなのですね…」

静代が呟くと、実田は低く頷いた。

「この教団にとって、菖蒲さんは特別な存在なのだろうね。教祖殿にとっても、お付きの方にとっても」

間もなく、門番が連れてきたのは、柔和な笑みを浮かべた年齢不詳の女性だった。彼女は穏やかな気配を持ちながらも、山奥の教団の主幹を担っていると思わせる、芯の強さを秘めていた。童磨のお付きの松乃である。

松乃は、実田の顔を見ると、その笑みを少し深めた。

「実田様。久方ぶりでございます。教祖様は、奥様からいただいた蓄音機を、今でも大切にされております」

実田はすぐに頭を下げた。

「松乃殿、ご無沙汰しております。急な訪問で申し訳ない。ただ、今回は――霧滝 菖蒲さんの命に関わる、一刻を争う事態となりまして。教祖様にお目通り願いたい」

松乃の笑みが、一瞬で凍りついた。彼女は周囲を気にしながら、実田と静代を門内へと手招きした。

「詳しくお話をお聞かせください。もう、霧滝…菖蒲様がいらっしゃらなくなってからしばらくは経ちますが、念のためどのような事になっているのか先にお聞かせ願いたいです」

「その方がいいでしょうな…。少々お邪魔させていただこう。
そして、こちらは菖蒲さんの育ての親であり、華雅流師範の霧滝 静代殿だ」

頭を深く下げた後、ゆっくり顔を上げる静代を見て、松乃は驚いたような表情を見せ、

「ご案内いたします」

と、すぐに背を向けて歩き出した。
/ 193ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp