第20章 10月31日 渋谷にて
一人ひとり品定めしているような視線になずなの鼓動は嫌に早くなった。
殺気を向けられたわけではないのに背筋に寒気が走る。
さっき特級呪霊を祓った時、あの人はどんな式神にも目もくれていなかった。
ただひたすらに陀艮に向かい、その進路を阻む式神を叩き潰していた。
陀艮が式神を操っていたのは自明、そして式神使いは総じて本体を叩くのがセオリーだ。
でも、あの人はそういう認識で動いていなかった気がする。
もっと反射的な、本能的な何か……
確証はない。
けれど、どうしてもその直感を疑うことはできなかった。
その上でなずなは結論を出す。
あの人は味方じゃない……
味方でないのなら、次は誰を狙う……?
あの人が伏黒くんが空けた穴から領域に入ってきた時、七海さんの合図で直毘人さんと真希先輩がこちらに走ってきていて、私は穴の傍にいた。
そして一瞬で真希先輩の游雲を奪って、私達には目もくれずに陀艮を狙った。
あの場で呪力のない自分では素手で陀艮を倒せないと判断して、一目で一番強い呪具を選び取った。
その過程から分かること……
あの人は強さを見て戦う相手を選んでいる……?
だとしたら次に狙うのは、右腕を失った直毘人さんでも左目を潰された七海さんでも、まして陀艮に手も足も出なかった真希先輩や私でもない……!
「っ!、待って!!」
なずなの直感は正しかった。
今の甚爾は本能のまま戦い続ける殺戮人形、その牙は常に強者へと向かう。
そして残った中で次なる強者と目されたのは領域展開をしていた伏黒。
その狙いまでは見抜いたが、なずなには全てにおいて、甚爾に追いつく術がなかった。
甚爾は一瞬で伏黒を掴み、窓を割って外に出てしまう。
なずなの手はわずかすらも届かなかった。