第20章 10月31日 渋谷にて
邪魔な式神を全て潰した甚爾はおもむろに游雲の両端をぶつけ始めた。
凄まじい音に特に耳のいい真希はたまらず両手で耳を塞ぐ。
―何だ!?
一体何をするつもりだ?
全員が固唾を飲む中、段々と游雲の端が削れ、尖ってくる。
游雲同士をぶつけて……研いでいるのか!?
甚爾が研ぎ終わった游雲を手に陀艮に狙いを定めた。
睨まれた陀艮は身を竦ませる。
負けるのか?
私が、呪力のない人間に!?
……いや、少年の領域が弱まるのを感じる。
必中効果さえ取り戻せれば全員殺せる。
時間を稼ぎさえすれば……!
その一心で上へ逃れる。
しかし、
「滞空できるんだもんなぁ」
その思考は直毘人に読まれていた。
「もう一度言おうか?」
先回りした直毘人が陀艮の頭を蹴って海上へ落とす。
迎え撃つ甚爾は不安定なはずの游雲を真っ直ぐ突き立て、棒高跳びの要領で上へ。
防御しようとした陀艮の腕の隙間を正確に捉え、頭だけを貫いた。
「まだ終わ……」
言い終わらぬ陀艮の右目を突き、更に接続部を引き千切り、一節になった游雲で頭を滅多刺しにする。
次の瞬間、バシュンと辺りの景色が駅構内に戻った。
領域の主だった陀艮は祓われ、燃え尽きようとしている。
術師5人がかりでやっと勝機を見出せたような呪霊を、必中効果が消えていたとはいえ1人で祓ってしまった。
しかし、まだ気を抜くわけにはいかない。
次なる疑問はあの男が味方かどうか―……
七海を始め、全員が油断なく睨む中、足元で燻る陀艮の亡骸には目もくれず、甚爾がこちらに向く。