第20章 10月31日 渋谷にて
特級呪霊を圧倒する甚爾をなずなは瞬きも忘れて凝視していた。
あれは、何……?
あの人、本当に人間なの……?
目にも止まらぬ速さ、数々の式神を一瞬で砕く破壊力……
呪力を感じないということは、生来の肉体のみの力であの動きをしているということ。
手当たり次第という印象を受けるのに、無数の式神を捌く動作は流れるようで……
もっと見ていたいと目を奪われてしまう。
真希もなずなと同じく目を見張っていた。
甚爾から目を離さず、彼を知っている風だった直毘人に尋ねる。
直毘人が下の名前で呼ぶ人間はほとんどが禪院家の者だ。
だが、真希はあの男を見たことも噂を聞いたこともない。
「ジジィ、アレは誰だ?」
「……フン、亡霊だ」
その返答に真希はどこか納得した。
並大抵の一級術師では束になっても勝てないレベルの強さ。
しかし、どんなに強くとも呪力がなければ禪院家では人として扱われない。
死んだ者として扱われていた……にしては直毘人が驚きすぎな気もするが、それに準じた扱いをされていたのだろうと予想はついた。
外への脱出が叶わなくなったが、戦況は好転している。
陀艮が圧倒される様子を見て、七海は決着までそう時間はかからないと悟っていた。
「伏黒君、もう少し保ちますか?」
「……はい」
「申し訳ない。彼に賭けます」