第20章 10月31日 渋谷にて
「渡辺さんはここで伏黒君の護衛を続けてください。私は直毘人さん達の加勢に……」
「七……海さん!」
頷いたなずなの後ろで伏黒が七海を呼び止めた。
「あのタコは今、俺と領域の押し合いをしていると思っています。でも俺の狙いは違う」
自分の不完全な領域では呪霊の領域に勝てないことは最初から分かっている。
だから……
「領域……この結界にわずかでも穴を空ける。入ってきた穴はもう塞がってます。内から外に出るのは、外から内に入るより難しいですが、人1人通れる穴をほんの数秒保たせることはできる」
あの呪霊は確かに脅威だが、伏黒はその遥か上の実力者を知っている。
「五条先生じゃないんだ。1日にそう何回も領域展開なんてできないはず。全員で領域の外に出れば勝てます」
「結界の縁は俺の足下、入ってきた時に触れたから分かる……いつでもいけます!」
「君だけ残るなんてことは無しですよ?」
「命は懸けても、捨てる気はありません」
そうと決まれば決行あるのみ。
「渡辺さんは伏黒君が穴を空けたら躊躇せず飛び込んでください」
「は、はい……!」
あとは少し離れて陀艮と戦闘中の直毘人と真希だ。
外への脱出を陀艮に悟られないようにこちらへ来るよう伝えなければならない。
「2人共!」
敵に悟られず、だが味方には確実に意図を伝えられる言葉を七海は瞬時に選び取る。
「集合!!」
一級術師への信頼もあり、その一言だけで直毘人と真希は陀艮への攻撃を止めて七海の元へ走り出した。
このタイミングで七海からの集合の指示。
“領域外への脱出”
除外していた思考が再び選択肢に上がる。