第20章 10月31日 渋谷にて
伏黒は重傷の猪野を連れて首都高速の渋谷料金所を目指していた。
七海の救護所設置要請が通っていれば、家入がそこに来ているはずだからだ。
猪野の容態は一刻を争う。
多分高専までは保たない。
七海が要請を出してからまだ少ししか時間が経っていないため、家入が間に合うか微妙なところだが、到着していることに賭けるしかなかった。
料金所に着くと入口には夜蛾の呪骸が座っているのが見えた。おそらく家入の護衛用だ。
良かった、ちゃんと来てくれていた。
中に入ると簡易ベッドや担架、キャビネットには包帯や点滴などの薬品が並んでいるのが目に入る。
短時間でここまで準備してくれていたらしい。
「家入さん!」
「伏黒か、どうした?」
「猪野さんが重傷を負ってしまって……」
「!そこのベッドに寝かせろ」
奥から出てきた家入が猪野の顔を見てすぐに指示を出し、反転術式を施しながら呼吸や脈を確認し始める。
一安心した伏黒が渋谷駅に向かうために救護所を出ようとすると、猪野の隣のベッドにも人がいることに気づいた。
「伊地知さん!?」
「……ああ、呪詛師にやられたらしくてな、七海に運ばれてきたんだ。大丈夫、伊地知も命に別状はないよ」
「呪詛師が帳の外にもいるんですか?」
メカ丸から状況を聞いた時には呪霊も呪詛師も帳内で術師を待ち受けているものだと思っていたが、外にもいるとなると厄介すぎる。
誰かが外の安全確保に動かなければ、
そんな伏黒の険しい表情から思考を読んだのか、家入が少し肩をすくめた。
「もう七海が排除してる。ただ、補助監督や窓は何人もソイツにやられたみたいだ」