第20章 10月31日 渋谷にて
落花の情で次々と式神を落としている直毘人も防戦一方になっていた。
魚の口に埋め尽くされる視界。
他がどうなっているのか、全く見えない。
マズいな……
式神の勢いが一向に衰えない。
まさかこの領域に付与された術式は……
考察する間もなく直毘人の顔面に陀艮の拳が飛んできた。
群がる魚の式神で見えなかった。
舌打ちしながら陀艮を睨むが、すぐに式神に喰らいつかれる。
「海は万物の生命の源。“死累累湧軍”は際限なく湧き出る式神だ」
無数の式神が殺到し、あっという間に直毘人の姿が飲まれていった。
真希やなずなに喰いついている式神の数は身体中を埋め尽くす程ではなくまだ少ないが、それでも捌ききれない。
なずなは肩や腕に噛みつかれる中、指や目が潰されないように懸命に式神を切り伏せていた。
以前白稚児の結界に閉じ込められた時と同じように術式を中和しようとしているが、全然間に合わない。
せめてもと真希と背中合わせになって背後から首を狙われることだけはなんとか阻んでいる状態だ。
ちらりと背後を見ると、大刀で式神を叩き切っている真希はだんだんと傷が増えてきている。
ダメ……
このままじゃ殺される……!
私は自分の傷は治せるけど、真希先輩は削られるだけ。
直毘人さんや七海さんも無事かどうか分からない……!
無事だったとしても、どうやってこの式神の大群を打破すればいいの……?
式神を切り伏せる手は止めず、しかし打開策のない状況に恐怖と不安ばかりが募る。
そんな中、陀艮の目がこちらに向いた。
「オマエ達が一番弱い……!」
「……っ!?」
陀艮の重い蹴りを受け、真希が海岸脇の林の奥へ吹っ飛ばされる。
「真希先輩っ!?」
悲鳴に近い声を上げるなずなにも陀艮の手が迫る。
なずなは恐怖に竦んで一歩も動けなかった。