第20章 10月31日 渋谷にて
直毘人の速度に陀艮は全くついていけなかった。
術式が発動できない!!
この男のせいだ!
速い、
おそらく漏瑚よりも!!
領域を展開しなければなす術がない……!
陀艮が手を組んだのも直毘人は見逃さない。
「させんよ」
掌印を阻むためにその手を叩き潰す。
しかし、じわりと陀艮の腹に浮き出る呪印。
その場にいる全員が息を呑んだ。
―領域展開―
「蕩蘊平線(タウウンヘイセン)」
次の瞬間、辺りの景色は一変し、穏やかな波が打ち寄せては引く浜辺になっていた。
そんな穏やかな浜辺の景色とは裏腹に、周囲には陀艮の呪力が満ちている。
突如、七海の肩と真希の脇腹、なずなの太腿に鋭い痛みが走った。
痛みが襲ってきた方を見ると、鋭く長い歯のある大口を開けた魚がいる。
あれに噛みつかれたのだ。
なずなは傷口を押さえながら魚の式神を凝視した。
全然見えなかった。
いつの間に近づかれたの!?
「違ぇぞ、なずな、あれが領域の必中だ。多分あの式神は当たるまでそこに存在してなかったんだ」
領域展開されるなんて真希も初めてだったが、ここまで手も足も出ないとは思っていなかった。
これでは防ぎようがない。
やはり多少無理やりでもなずなは離脱させるべきだったと真希は歯噛みする。