第20章 10月31日 渋谷にて
陀艮の指先に渦巻く水の玉が作られていく。
それを下に落とすと大量の水が解放され、強大な水流となって直毘人達に襲い掛かってきた。
水!?
この場所は高さがあるからまだいいが、通路まで押し流されれば溺れてしまう。
なずなは上に逃れようと階段の方へ振り向くが、迫り来る水流の方が速い。
逃げきれない……!
どうすれば、と考える時間すらない。
「わゎっ!」
突然後ろに引っ張られた。
「なずな、大丈夫か!?」
「真希先輩!」
引っ張られた方を見ると、真希が柱に大刀を突き刺し、大刀の柄を足場にして難を逃れていた。
なずなは真希に襟首を掴まれて引き上げられている状態だ。
眼下では凄まじい水流がうねりを上げている。
「なんつー物量だよ」
恵の満象の比じゃねぇな。
地下だったら詰んでたぞ。
この水が全て特級呪霊の呪力のみで作り出されていることに愕然とする。
「あの先輩、ありがとうございます」
「気ぃつけろよ、今までとは訳が違う」
真希となずなが相手をした中ではおそらく交流会で遭遇した特級呪霊が近いのだろうが、それでもこんな物量の攻撃はなかった。
真希が鋭く睨む先には陀艮と水流の影響を受けていない直毘人がいる。
直毘人の周囲には一番初めに陀艮を閉じ込めたフレームのようなものが何枚も出ており、一様に水を閉じ込め、押し留めているようだ。