第20章 10月31日 渋谷にて
「七海さん」
「ええ」
真希と七海が睨む先、柱の後ろに隠れ、怯えたようにこちらを見ている呪霊がいる。
赤い大きな頭から白い布を被り、体は布に隠れているが、足は触手のようになっている。
「ぶふぅー、ぶー」
真人達と組んでいる特級呪霊・陀艮(ダゴン)だ。
すぐさま七海が鉈を構え、祓除にかかろうと前に出る。
「私が」
しかし、それより早く動いた者が1人。
「オマエ達」
最後尾にいたはずの直毘人の声が前方から聞こえて初めて気づく。
「ちと鈍すぎるな」
「!?」
柱の後ろにいた陀艮が小さなフレームに収まるような形で平面に閉じ込められていた。
直毘人はそのフレームに手を重ねている。
そして、平面ごと陀艮を殴ると、フレームが砕け、陀艮が吹っ飛んだ。
いくら術師といえど、呪力強化のみで動ける速さには限度がある。
先程の直毘人の動きは明らかにその限度を超えていた。
「見えました?」
「……いえ」
「ぜ、全然……」
七海の問いかけに真希もなずなも首を横に振る。
酒に酔っていても禪院家当主の名は伊達ではないということか。
柱に叩きつけられ、床に転がって呻く陀艮は苦しげだ。
「ぶー、ゔー、ゔっ、ゔっ」
何かが喉から迫り上がっている。
「ゔっ、オ゛ロ ロ ロ ロ゛ロ゛」
ガラガラと音を立てて吐き出されたのは無数の人骨。