第20章 10月31日 渋谷にて
優位に立った脹相も思うように身体は動かない。
3発だ……
ガードしたものを除いて俺が虎杖から食らった打撃はたった3発。
それがここまで……!
脈打つように身体が痛み、軋む。
“血星磊”は硬度だけ、“穿血”程の速度も威力もない。
不意打ちでなければ貫通させることなどできなかっただろう。
赤血操術は通常“血星磊”のように血を凝固させない。
“血刃”も輪郭を定め、血液を高速で回すことで殺傷力を高める。
赤血操術の術師といえど、全ての血管に意識が届くわけではないため、血液を強く凝固させると、突発的な血栓症のリスクを抱えることになるのだ。
だが、脹相は虎杖悠仁というリスクの方が遥かに大きいと判断して、右腕に血液を纏い凝固・強化して構える。
「来い」
脹相は強化した右腕を中心に猛攻を仕掛ける。
虎杖は足も使ってその攻めを捌き、続く足払いも躱すと、トイレの個室に入り、鍵を閉めた。
「!?」
虎杖の狙いが分からず、脹相はドアの前で立ち止まる。
今更隠れたところでこんな壁……
と思ったら虎杖が内側からドアを蹴破って脹相の顔面に蹴り込んだ。
咄嗟に右腕でガードされたが、まだ攻勢は続く。
脹相の首に両脚を回すと、床に引き倒す。
崩した!
右手は防がれるが、虎杖の真の狙いは左。
俺は初手以外左の拳を使ってない。
負傷してもう使えないって思ってるだろ。
だから右を囮にしたこの一撃は入る!!
渾身の左拳だったが、ガキンと硬質な音と感触。
……―なんだ?
今の手応えは……
驚愕した虎杖の肩に脹相の右腕が、更によろめいた所へ拳を腹に叩き込まれ、壁に叩きつけられる。
息が詰まり、込み上げる吐き気を堪えきれず大量に吐血する。
……もう起き上がれなかった。
「残念だったな」
虎杖が左拳を入れた脇腹、法衣に隠れて見えなかったが、そこも血の装甲で覆われていた。