第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
本来、呪霊と言葉を交わすのは望ましくないとされている。
まともな会話にすらならないことが多い上に、呪霊の中には人間を唆すものもいるからだ。
会話をするメリットはほぼない。
だが、なずなは白稚児との会話をやめなかった。
足止めするための時間稼ぎでもあるが、その言葉を受け止めるべきだと思ったからだ。
それは言葉を交わす内になんとなくある推測に行き着いたから。
「……あなたも生贄だったんだよね?」
白稚児は生贄文化の仕組みから生まれた呪いだと言っていたが、おそらくそこには過去の生贄の子の因子も含まれている。
生贄となったことへの無念や怨嗟だ。
だから村人には激情を向けるし、対照的に今まで生贄となった子供達に同情を見せる。
その子らの魂を縛りはしていたものの、安全な場所で遊べるようにして魂を慰めていたとも取れるのだ。
これまで生贄となった子供達にとって、ここは憩いの場だったに違いない。
静かで、穏やかで、自分達を脅かす者は誰もおらず、同じ境遇の子達と遊べる。
そして結界を張る白稚児自身も理不尽なシステムに生み出された呪い。
完全な悪だと断じることは到底できない。
なずなの憐れむような視線を受け、白稚児は片目をすがめた。
「……だから何?」
「長い間、大変だったでしょ。あなたも楽になっていいんだよ」
「ふざけるな!!オマエの偽善のために祓われてなんかやらない!大体祓う手段だってないくせに!ボクはこれからもずっとあの村を呪い続けて強くなるんだ、から……っ!?」
次の瞬間、白稚児の体内を突き破るように呪力が弾け、大きく鋭い棘が生えてきた。
なずなにとっては見慣れた野薔薇の術式、だが白稚児は突然の内側から一撃に混乱している。
「な、に、これ……!」
足止めは成功した……!
皆が仕掛けを見つけてくれたんだ!
これで白稚児に攻撃が入れられる……!