第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
白稚児は動かぬ白い子供を撫でる手を止めない。
指先の鋭い鉤爪で傷つけぬように優しく丁寧に撫で続ける。
「オマエは偽善者だねぇ。この仕組みを作った村の連中を助けるためにこの子供達を殺した」
「……あなた達にとっては偽善かもしれない。だけど、私はそう思ってないよ」
悲痛な表情を浮かべるなずなの口調は最初より随分穏やかになっていた。
「順番が違うんだよ。村の人達の意識を変えるのは、あなたを祓った後。そこはどうあっても変えられない。だってそうしないと生贄文化はなくならないから」
「意味分かんない。子供をイケニエに祀り上げて火あぶりにするような連中の方が余程罪深いのに」
理解不能だと肩をすくめる白稚児。
その言い分はなずなも理解できる。
ここの村人は無垢な子供を生贄として捧げることに何の疑問も持たず、少しの罪悪感もない。
その意識を変えていくのは、白稚児を祓うより根気がいるし、時間をかけなくてはならない。
しかし、白稚児を祓除しなければ、村人の意識改革に着手することもできないのだ。
「あなたが生贄を取り込んで村に結界を張り続ける限り、村の人達はあなたの存在を信じる。あなたも生贄文化という機構に縛られて、生贄を取り込むことを止められない。この悪循環に穴を開けないといけないの。だからまずあなたを祓う」
「ボクを祓ったって、村の連中の意識は絶対に変わらないよ。何年続いてきたと思ってるの?オマエの親もその親だって生まれてない時からだ!アイツらはこの先だってそうする!」
もう数百年続いてきたのだ。
この先天変地異でも起こらない限り、変わることはない。
「……いっそ村を滅ぼせばいい。そっちの方があっという間に終わるでしょ?それだったらオマエを解放してもいいよ」
村を壊滅させると約束すれば、この子達を殺したことも許してあげるし、無傷で帰してあげる。
白稚児が提示した縛り。
その場しのぎで口約束だけして解放されても、無垢蕗村を滅ぼさなければ、なずなはペナルティを受ける。
……これが自分1人だけの状況だったら、答えが違ったのだろうか……
そんな思いが頭をよぎったが、なずなの答えは決まっていた。
「そんなことしないよ。それは何の解決にもならない」