第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
そうこうしている内に警護の村人を無力化した伏黒がやってきた。
「“しゃれこうべ”は壊せたか!?」
そう尋ねるが、2人の足元にある小さな頭蓋骨を見て、まだ壊せてなかったのかと眉をひそめる。
「これ、メチャクチャ硬ぇんだよ。俺が殴っても全然効いてねーし、下に叩きつけても、釘崎が金槌で殴ってもこんな感じ」
「それなら単に打撃耐性が強いだけかもしれねぇ。斬撃、圧砕も試すぞ」
お手上げだとジェスチャーする虎杖を横目に、伏黒は呪具での斬撃を試みた。
が、呪具は弾かれてしまい、“しゃれこうべ”は無傷のまま。
ならば押し潰すまでと満象を呼び、容赦なく踏み潰させる。
「チッ、駄目か」
満象の足を退けて確認すると、“しゃれこうべ”は巾着袋ごと地面にめり込んでいた。
掘り出してみるが、やはり傷はついていない。
それを傍で見ていた虎杖と野薔薇は思わず口を揃えた。
「象が踏んでも壊れない……!」
「オイ、ふざけんな」
こんな時にいちいち茶化すなと刺々しい態度の伏黒に2人は少し困ったような顔をする。
「焦んのも分かるけどさ、ちょっと落ち着こうぜ?らしくねーよ」
「そうよ、なずなが危ないのは事実だけど、焦ってるだけじゃ助けられんないわよ」
その言葉に伏黒は怪訝そうにしている。
確かになずなが足止めすると言って1人残った時に焦燥感はあったが、それでもどう動くべきか冷静に判断していたつもりだった。
だが、2人にはそうは見えなかったらしい。
「……俺、そんなに焦ってるように見えたか?」
「自覚無かったのかよ!!」
またもや虎杖と野薔薇の口から同じ言葉が飛び出した。
八十八橋の時もそうだったが、伏黒は身近な人が危険な状況に置かれていると、本人が自覚している以上に動揺するようだ。
それだけなずなのことを大切に思っている証拠だが、彼女も呪術師なのだから危険な目に遭うことはきっと多くある。
そんな時に毎回冷静さを欠いてしまったら、伏黒の方が危ない。
伏黒も指摘されて初めて気づいたようで、少しバツが悪そうに呟いた。
「……悪ィ」