第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
……ここで、諦めるわけにはいかない。
私が諦めて術式の中和を止めたら、魂を引きずりだされて、白稚児が結界を張り直す。
また生贄が選ばれるし、それも100年近く待たなければならなくなる。
なずなは着せてもらった伏黒の制服に少しだけ顔を埋める。
その僅かな残り香はなずなの胸に火を灯した。
大丈夫、
私は1人じゃないんだから……!
皆なら必ず呪霊を祓う仕掛けを見つけてくれる。
それまで白稚児を足止めすることが途方もないことだったとしても……
まだやれる。
「まぁいいけどね。待つのは得意だし」
「なんで、子供を生贄に選んで魂を縛るなんてことするの?」
戦うことでは白稚児をどうにもできないと割り切り、なずなは言葉で注意を引くことに切り替えた。
野薔薇のように煽り文句を使おうにも絶対途中でボロが出るので、純粋な疑問をぶつける。
しかし、白稚児は意味が分からないというように肩をすくめて首を傾げるだけ。
「オマエこそ何を言っているの?順番が逆だよ。ボクはこの村の生贄文化という機構から生まれた呪い。それに従うことに動機はないの」
「っ!?」
「人間は物を食べて排泄するでしょう?そこに“なぜ?”なんて存在しないよね?ボクが魂を白くするのもそれと同じ。でも、うーん、そうねぇ……白い魂を縛るのは、イケニエが寂しいと泣くから」
「ぇ……」
それはまるで、生贄となった子供達のために行っていたことのような……
「泣くのよ、寂しい、寂しいって。村の連中には同じ人間として扱われず、最後は火までつけられるんだから、当然よね?」
倒れて動かない白い幼子達を白稚児は自身の骨の手で慈しむように撫でる。
人の負の感情から生まれる呪霊がこんな風に人間に接するなんて、にわかには信じられない。
「寂しくないように皆でここで遊んでいたの。出ていきたいなんて言われたことないわ。なのにオマエは全部奪った。これじゃあどっちが呪いか分からないねぇ?」