第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
「……状況は分かりました。生贄の子供は預かります。ただ、この子供、かなり弱ってますね」
伏黒が連れてきた生贄の子を見た伊地知は眉を寄せた。
気絶してぐったりしている子供は顔色が悪く、呼吸も少し弱い。
手早く状態を確認する伊地知の後ろから伏黒が補足する。
「呪いに当てられているのもそうですけど、儀式の前も寝たきりで生命維持装置に繋がれてました」
「今すぐ処置しないと助からないというわけではありませんが、この村に専用の設備があるのなら、ことが終わったら後すぐに連れて行きましょう。この周辺には大きな病院がありませんから」
子供を後部座席に寝かせ、伊地知が振り返ると、伏黒が悔しげに唇を噛んでいる。
言葉にはしないが、1人残ったなずなのことが気がかりなのだろう。
「伏黒君、焦る気持ちは分かりますが、落ち着いてください。渡辺さんが自分から足止めに残ると言ったのでしょう?彼女は無責任にはそんなことは言いませんよ」
「……分かってます」
渡辺は勝ち目が全くないのに足止めに残るなんてことは言わない。
そんなことは分かっている。
だが、どうしても不安が湧き出して止められないのだ。
もし白稚児が未知の攻撃手段を隠し持っていたら?
結界内にいた複数の子供は何者だ?
八十八橋の時のように別の呪霊が入り込んできたら、渡辺1人で対処しきれるか?
何より……
マーキングによって何らかの身体的ダメージを受けないか?
津美紀のように寝たきりになってしまうのではないか?
首を振って無理やり追い出そうとするが、どうしても最悪の事態が頭から離れない。
「とにかく虎杖達を追います」