第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
「……やっぱ人がいるよなぁ……」
祠が見える位置まで進んだ虎杖と野薔薇はそれ以上近づけずにいた。
それもそのはず、祠の周囲を3人の村人が見回っているのだ。
3人とも猟銃を持っており、迂闊に茂みから出ると、撃たれる危険性がある。
「どうすんのよ?時間ないわよ」
「全員ショットガン持ってるし、3人いるからなぁ……せめてもうちょい固まってくれればまとめて捕まえられると思うんだけど」
3人とも少し距離が離れているため、虎杖と野薔薇が1人ずつ押さえても、3人目に発砲される。
しかも散弾銃なので、避けるには物陰に隠れなければならないが、この辺りの木々はどれも細くて遮蔽物にならない。
「伏黒が来るまで待つか……?」
「……別にここで破壊する必要はないわよね?」
「え、うん、だと思うけど?」
野薔薇の意図としては“しゃれこうべ”をどこかに持ち出して、もっと安全な場所で破壊しようというものだろう。
だが、一番の問題となる“どう持ち出すか?”が虎杖には分からず、首を傾げる。
そして続いた野薔薇の提案に仰天した。
「だったら伊地知さんに車で突破してもらって、“しゃれこうべ”だけ分捕って離脱、ここから離れた場所で壊すわよ」
「ええっ!?」
「シッ、声がデカい!」
「ご、ごめん……でもできんの?」
「車を呪力で強化すればなんとかなると思うし、生身で出ていくのが危険なら、乗りつけるほかないでしょ」
「強行突破かよ……」
「それが一番安全よ。強化する対象が車だから防弾レベルまで強化できるか微妙だけど、伏黒ならなんとかできるんじゃない?」
呪具や自分を呪力で強化するのとは規模が違うのだ。
普段から呪力を出力し慣れていて、呪力量も多い伏黒に懸けるのが一番可能性としては高い。
「……やっぱだいぶ無理ない?」
「だったらもっといい代案はあんの?」
「ないけど……」
ここで時間を無駄にする訳にはいかないと、2人は一旦伊地知の待機場所まで戻ることに決める。