第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
弾き出された伏黒は再び閉ざされた結界に向かってきつく舌打ちした。
またなずなを1人残してしまったことに対する罪悪感。
何もできずに弾き出されてしまった無力感。
何より、なずなが生贄の子の代わりに白稚児に取り込まれてしまう可能性が浮上し、早く祓わなければという焦燥感が己を苛む。
それでも冷静さは失っていなかった。
渡辺は白稚児には何か仕掛けがあり、そのせいで祓除できないと言っていた。
村人が言ったという“しゃれこうべ”とは、虎杖達が村の子供達から聞いたもので間違いないだろう。
村人全員をマーキングしていると思われる呪物。
それに触っていないはずの渡辺は、白稚児に触られてマーキングされていた。
“しゃれこうべ”と白稚児が強く繋がっている証拠だ。
一番手っ取り早いのは“しゃれこうべ”を壊すこと、か。
呪霊に攻撃が通じないパターンでよくあるのが、分身しているというもの。
その場合は本体はどこかに隠れており、分身をいくら攻撃しても意味がないのだ。
今回は本体が“しゃれこうべ”で、白稚児は分身……というより身代わりという扱いなのだろう。
そう考えると事前情報に出ていた白稚児の攻撃能力が低いというのにも納得がいくし、前の術師が祓除に失敗したという話とも辻褄が合う。
そう見当をつけたところで、伏黒は周囲を確認した。
周りにはまだ大勢の村人が残っており、怪訝そうにこちらを、というより伏黒が抱えている生贄の子を見ている。
「生贄だ」
「なぜ生贄が外に出ている?」
「儀式は失敗したのか?」
「だが、白稚児様はまだあそこにいる」
呪いに当てられて気を失った生贄の子供をここに残すのは危険だ。
まず子供を伊地知に預け、虎杖達と合流して呪物を破壊する。
……いや、結界は消えたし、先に虎杖達に連絡した方が早いか?
頭の中で今後の行動を組み立て、呼び出した渾に生贄の子を持たせて急いで神社を後にする。
幸い神社に集まった村人は、ここに残るか、生贄を追うかの判断をつけられないようで、伏黒を追ってはこなかった。