第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
我ながら薄情だなと思える程、感情の振れ幅はなく、動きが乱されることもない。
深く息を吐いたなずなは、1人の幼子に狙いを定めると一息に距離を詰め、その小さな額を鬼切で貫いた。
間髪入れずに引き抜くと、額を貫かれた幼子は倒れ伏して動かなくなる。
この結界内にいる間はどんな状態になっても囚われ続けるようだ。
他の子は白稚児に強制されているのか、尚も歌い続けているが、その目は恐怖一色。
涙を流している子もいる。
呪いを歌う子が1人減ったせいか、ぶつかってくる呪力も少し軽くなった。
なずなはこの機会を逃すまいと更に1人、2人と幼子達に斬りかかる。
「オマエ、本当に容赦ないねぇ……」
突如として始まった虐殺に驚きを通り越して呆れる白稚児に対して、なずなは悲痛な声を漏らした。
「……私は脅威を排除することでしか、誰かを守れない」
これが……
この迷いの無さが私のどうしようもない性質だ。
彼らは自分達がされた非道な仕打ちに対して訴えているだけ。
そんな無垢な子供の魂を手にかけることは確かに悲しいし、胸が痛む。
でもそんなことでは止まらないのだ。
この村の生贄文化を終わらせるためには白稚児を祓わなければならなくて、
白稚児を祓ったらこの結界はなくなり、この子達はもうどうやっても助からない。
だが、外に逃したあの子だけはまだ助けることができる。
今この子達を斬ることをためらったら、生贄の子まで助けられなくなるかもしれない。
だから、この悲しみも胸の痛みも立ち止まる理由にはならないのだ。
ああ、私って異常者なのかもしれない。
でも、そういう自覚があっても手元は全く狂わないという確信がある。
せめて痛みを感じないよう一瞬で。
「本当にごめんね……」
もっと私に力があったら……
もう何度目になるか分からない後悔を胸に、なずなは白い幼子達を1人残らず切り伏せていった。