第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
通常の結界なら穴を起点に全体が壊れるはずだが、白稚児は穴を修復して結界を復活させようとしている。
こんなこと、余程結界術に長けた者にしかできない芸当だ。
逆に白稚児はそれだけ結界を構築する能力が高いということ。
穴が修復されるに伴い、マーキングされていない伏黒を外に弾き出そうとする働きも強まる。
この効果を打ち消さないと白稚児を祓うのも容易ではない。
領域展開して一気に畳みかけるか?
そう判断して両手を組むが、なずなに止められた。
「ここじゃ白稚児を祓えない。どこを切ってもすぐ治るし、心臓を刺しても効いてる気配がなかったの、何か仕掛けがある!」
「なら一旦ここから脱出を……」
そうこうしている内に白稚児が動く。
「ここは白い魂の花園。オマエなんかが居ていい場所じゃないよ」
―白魂揺籃(ハクコンヨウラン)―
一段と伏黒を妨害する力が強まり、伏黒の呪力までもが結界の外に流されていく。
「伏黒くん!この子を外に連れてって!」
術式効果が不完全な内に、自分の力で持ち上がる内に。
生贄の子を外に連れ出すチャンスは今しかない。
なずなは背中が割れたままの生贄の子を抱き上げて伏黒に向かって投げた。
「渡辺っ、オマエも来い!」
生贄の子を抱き留めた伏黒がなずなに手を伸ばす。
しかし、なずなはその手を掴まなかった。
「私はここで足止めする。村の人達はしゃれこうべのことが私達に漏れたから、儀式を早めるって言ってた。多分白稚児が祓えないことに関係してると思う。私が時間を稼ぐから……」
ここでなずなが一緒に外に出ても、すぐに白稚児は追ってくる。
結界内からマーキングしていない人間を弾き出せるなら、その逆、外にいる生贄の子を結界内に引き込むこともできるはず。
そんなことはさせない。
「駄目だ!オイ、渡辺っ!!」
「お願い、その仕掛けを見つけて」
その子を守れるように、
もう二度と生贄なんて出さないようにするために。
残ると決めたなずなの目には一切の迷いもなかった。