第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
「クソッ」
外に残された伏黒は忌々しげに結界の外殻を叩いた。
領域展開まではいかないものの、本来の村の結界と同じく、マーキングされた人間しか入れない結界だ。
なずなが結界に吸い込まれていく直前、彼女の顔や首に広がった鎖の模様は、否応なく津美紀を思い起こさせる。
一刻も早く祓わなければ……!
そのためにまずはこの結界を壊す。
村の結界が復活していないことを考えると、白稚児はまだ生贄を完全には取り込んでいない。
であれば、この結界も強度はそこまで高くないはずだ。
今の手持ちで一番高威力なものは……
伏黒が影から出したのは游雲。
三節棍を使うのは苦手だが、相手は動かないし、反撃もしてこない結界だ。
当てるくらいなんてことない。
自分の呪力も乗せて渾身の力で叩きつける。
2、3度同じ箇所に游雲を叩き込むと、ピシリと薄く亀裂が入った。
更に叩くと亀裂は大きくなっていく。
いける……!
もう一度游雲を繰り出すと、硬質な音を立てて結界が壊れた。
結界内部、伏黒が割った部分以外は夜の世界になっていた。
コレ、白稚児の生得領域か……?
「伏黒くんっ」
「渡辺!」
なずなの声に振り向くと、彼女と対峙する白稚児、生贄の子以外の幼子が複数人。
白稚児は侵入した伏黒を見て露骨に顔を歪めている。
「オマエは邪魔よ。早くここから出ていって」
白稚児が片手を翳すと、先程伏黒が壊した結界の穴が塞がっていく。
と同時にぐんと穴の方に引っ張られた。