第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
白い月と静かな風になびく穂草、その上を白い蝶が飛んでいる。
村の神社とは全く異なる景色。
ここが白稚児の結界の中……?
相変わらず全身が重く、指1本動かせない状態だが、視界はハッキリとしているし、思考も鈍っていない。
身動きできないなずなが見ているのは、生贄の子とその周りに集まる6、7人の白い幼子達。
幼子達は皆白装束を着ており、黒髪と対照的な真っ白な肌をしている。
白稚児とは容姿が全く違うし、呪力も感じない。
……何より生贄の子と同じ化粧をしていた。
そんな幼子達が生贄の子の背中をさすっている。
―あたらしい おともだち―
―はやく でておいで―
―こわくないよ?さぁ わたしたちとあそびましょ―
「ぁああっ!」
「……っ!?」
生贄の子が返事をするように声を上げると、その背中にピシリと亀裂が入った。
なずなは思わず息を呑む。
亀裂はどんどん大きくなり、やがてぱっくりと開いてしまうが、血は1滴も出ていない。
そして、割れた背中から白い何かがゆっくりと迫り上がってきていた。
鳥の雛が卵から出てくるように、
あるいは蝶が蛹から出てくるように。
いけない……!
それ以上はいけない!
何が起こっているのか分からないが、なずなはそう直感する。
その光景に目を奪われるあまり、すぐ背後に別の気配があることにも気づかずに。