第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
「……オマエ、奴らに火つけられたのか?それにその額もどうしたんだ?」
縮こまっているなずなの袖を折りながら、伏黒は彼女の額に残る血痕を見つめていた。
もう血は止まっているようだが、一体何をして負傷したのか。
左腕が燃えていたことといい、かなり無茶をしたんじゃないか。
肝心な時に1人残してしまったことにひどく罪悪感が込み上げてくる。
「ち、違うよ、火は呪霊の注意を引くために私が自分でつけたの。こっちはちょっと石が当たっちゃって……で、でも、もう全部治ってるから大丈夫っ」
「自分でつけたって、もっと広範囲に燃え広がってたらどうするつもりだったんだ!?」
「ご、ごめんなさい……」
しゅんと肩を落として俯く姿に伏黒は自己に対する嫌悪感を感じて口を引き結んだ。
渡辺は被害を最小限に抑えようとしただけだ。責めるべきじゃない。
そんなことは分かりきっているが、やったことが命に関わることだけに次に出た言葉もやや荒くなってしまった。
「……石だって奴らに投げられたんだろ」
渡辺が生贄の子供を救出しようと動いた時に石を投げてきそうなのは村の連中しかいない。