第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
「っ!満象!!」
白稚児の目がこちらに向くのを待っていると、突然上から聞こえてきた伏黒の声。
伏黒くんが来てくれた……!
安堵するのも早々にすぐ目の前に伏黒が着地してきたと思ったら、足元の地面の感触がなくなり、ずぶりと沈んでいく。
急に地面が柔らかくなったような感覚でバランスを崩しそうになるが、なずなが体勢を崩す前に伏黒に力強く抱き留められた。
ぇ、と……?
す、すごく近い……!
伏黒くんの鼓動が聞こえるくらい……!!
あまりのことに思考が追いつかないでいると、なずなの後頭部に大きな手が回ってきて、ぎゅっと顔を胸に押しつけられた。
「っ!?」
彼の体温、硬い胸板の感触に思考はパンクしてしまう。
そして次の瞬間、水流が2人に襲い掛かった。
「渡辺!大丈夫か!?」
水が収まった直後、心配そうに眉を寄せた伏黒に覗き込まれ、なずなの心臓は大きく跳ねる。
「ぅ、うん、だ、大丈夫っ」
正直なところ、別の意味で全然大丈夫ではなかったが、コクコクとうなずいて無事であることを示した。
左腕に広がっていた熱さは消え、痛みも徐々に引いてくる。
そしてようやく先程起こったことの全容も分かった。
伏黒が満象の水でなずなの左腕の火を消してくれたのだ。
地面の感触がなくなったのは、満象の水圧に流されないように影に沈めたため。
これで生贄の子を連れて逃げられる。
なずなが安堵していると、伏黒が慌てたように自分の上着を脱ぎ、なずなに着せてきた。
「っ……濡れてて気持ち悪ぃかもしれないけど、コレ着てろ」
「ふぇっ!?」
肩に掛けられた上着は裾がなずなのお尻まで届くくらい大きく、彼の匂いが鼻腔をくすぐってくる。
これまで以上にうるさくなった鼓動と顔から火が出てしまいそうになる中、若干震える手で袖を通す。
余ってしまう袖を捲ろうとすると、すかさず伏黒の手が下りてきて、ちょうどいい長さに袖を折ってくれた。
「ぁ、ありがとぅ……」