第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
伏黒は村人に咎められるのもお構いなしに神社までの道のりを最短距離で駆け抜けていた。
神社の鳥居が見えてくる。
その奥には人だかりと立ち上る煙。
やはり儀式は既に始まっていた。
人混みに割って入るのはリスクもあるし、効率が悪いと判断し、鵺で上空から儀式の様子を窺うことにする。
呼び出した鵺に掴まり、鳥居の上に降り立つと、舞台周辺の様相が見え、伏黒はその光景に愕然とした。
拝殿前の広場の中央には炎上する舞台。
少し離れた場所にいる生贄の子供には目立った負傷はない。
それを遠巻きにしている村人達と渾が攻撃しているのは白い幼子……あれが呪霊か?
待て、生贄の子供と一緒にいたはずの渡辺は?
どこだ、と探しかけて伏黒は瞠目した。
炎上した舞台の煙で伏黒のいる場所からは見えにくいが、舞台の横に人影がある。
目を凝らすと手には細長い棒状の物……おそらく鬼切だ。
しかし、そんなことよりも鬼切を持っていない方の手、何故あんなに赤く揺らいで……
「っ!満象!!」
なずなの腕が燃えていると確信した伏黒は鵺や渾が解けるのも構わず、呼び出した満象と共に広場の中心に飛び降りた。
満象が水を噴き出すのに合わせて、水圧に押し流されないようなずなを抱き寄せ、一緒に腰上まで影に沈む。
そしてなずなが水を吸い込まないようにしっかり抱き込み、自分も息を止める。
直後に勢いよく水流がぶつかってきた。
火が燃え移るやもということは完全に頭から抜け落ちていた。