第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
火種が舞台の基部に投げ込まれ、パチパチと弾ける音が聞こえ、煙が上がってくる。
まだ炎は見えない。
動くのはもう少し火が大きくなってから……?
悩む時間もそこそこに、丸太の隙間から赤々と燃える火が見えてきた。
今だ!!
なずなは脇目も振らずに舞台目掛けて駆け出す。
「オイ待て!?くっ、何だこれは!?」
なずなを見張っていた男は渾に押さえつけられ、身動きがとれない。
村長や他の者も驚くばかりで動けず、一切邪魔されずに燃え始めている舞台へ辿り着き、急いで生贄の子を抱えて舞台から飛び降りる。
後はここから離脱して、伏黒くんと合流すれば……!
なずなが渾を呼ぼうと振り向くと、村人がこちらに何かを向け、振り上げていた。
咄嗟に身を引くと、バシャリと液体をかけられ、避けきれずに左腕に冷たい感触が広がる。
鼻をつく刺激臭。
……この臭い、灯油!?
そう認識した瞬間、目の前に迫ってくる橙色。
更に飛び退くと、一瞬前になずながいた場所が燃え上がった。
村人の誰かが火のついた松明を投げてきたのだ。
灯油を浴びた自分に引火しないよう距離を取る。
「オマエ、やはり儀式を邪魔する気だったんだな!」
村人達の目が一斉に敵意の色に変わる。
「この子に火をつける必要はありません!殯宮にあった儀式の書物を読みました。そこには榊を燃やすだけで、生贄を火あぶりにするなんて書いてなかった!」
声を張り上げたなずなは村人達から離れ、辺りに視線を走らせた。
火はついた……呪霊は?
呪霊はいつ現れる……!?