第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
なずなは神社に設営された舞台で着々と進む準備を歯噛みしながら見ていることしかできずにいた。
粘りに粘ってなんとか儀式に同席することは許されたものの、2人の男にずっと見張られている。
このままでは伏黒と合流できない。
生贄の子にも常に人が何人かついている状態だ。
いざという時には全員振り払えるだろうが、タイミングを見誤れば、呪霊出現前に儀式から追い出される。
舞台で準備する者や生贄の子に化粧を施す者、なずなの背後にいる見張りの者。
注意深く観察して生贄の子の救出タイミングを見極める。
幸い、なずなの傍らにいる渾は村人には見えていない。
その時になったら見張りの人達を渾に止めてもらい、自分は生贄の子の救出に向かう。
なずなは頭の中でシュミレートしながら、儀式の準備を見つめていた。
舞台の基部に組まれた丸太の中に小枝や木片といった火のつきやすそうなものが入れられていく。
本当は今すぐにでもここからあの子を連れ出したい。
早く安全な場所へ連れて行ってあげたい。
なずなは逸る気持ちを鎮めようと胸に手を当てて拳を握った。
焦らないで……
まだ……
まだその時じゃない―……
「では生贄を舞台へ」
村長のその言葉で、生贄の子を傍にいた者が抱き上げ、舞台へ登っていく。
なずなはその様子を固唾を飲んで見つめている。
狙うのは、生贄の子が舞台に1人きりになって、舞台の基部に火がつけられた時―……
生贄の子は舞台に無造作に寝かされ、不安げに声を上げている。
その声を無視して、子供を舞台へ上げた者のみが降りてきた。
それを確認した村長が手を上げて合図する。
「これより儀式を始める。舞台に火を!白稚児様に生贄を捧げるのだ!」