第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
しばらくして部屋から出てきた村人達。
白装束を着せられた生贄の子供も抱きかかえられている。
なずなは建物を出ようとするその一団を遮るように扉の前に立った。
「あの!どちらへ行かれるのですか?」
「本殿へだ。娘、邪魔をするな」
「生贄の儀式が始まるまで、その子はここで過ごすのでしたよね?」
あくまで盗み聞きしていない体で問いただす。
すると、村長は悪びれもせずに反論してきた。
「過ごすも何も、これから儀式を行うのだ。正式な手順通りにな」
「ですが、儀式は午後10時からだと……」
「オマエ達のせいで事情が変わったのだ。儀式は前倒しで執り行う。オマエの役目はこれで終わりだ。さっさと仲間のところへ戻れ」
「……っ!」
無意識のうちになずなは奥歯を噛み、拳を握りしめていた。
絶対にここで引き下がるわけにはいかない!
考えろ、どうすればこの人達を納得させられる?
……もし、伏黒くんだったら、どんな風に説得するだろう?
毅然とした態度で、冷静に、反論したい気持ちは抑えて、決して焦らずに―……
「刺客はこの儀式の日程を特定し、村の結界が緩むタイミングも掴んでいます。刺客側に儀式の情報が漏れている……まだ私の仲間から刺客を排除したという連絡もありません。今、私がその子から離れるのは非常に危険です」
全てが全て口からの出まかせ、都合の良い嘘だが、丸ごと捏造の方がかえって話を作りやすい。
「ぬぅ……」
村長は少し悩み始める。
やはり村側としては儀式の成功が絶対的な優先事項なのだ。
もう一押し、となずなは畳み掛けるように続けた。
「その子を狙っている刺客は、呪詛師です……私達と同じく呪術を使ってきます。呪術には呪術でしか対抗できません。刺客が儀式の場に現れた時に私達の内の誰かがいなければ、その子を守れません。もしそうなった時になす術なく生贄を殺されてもいいのですか?」