第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
しかし、部屋を出てもなずなはその前から離れない。
素直に諦めるつもりは毛頭なく、壁に耳をつけ、呪力を集中させて聞き耳を立てる。
呪術的には何も防護されていない木の壁だ。
それだけで中の会話はほとんど丸聞こえだった。
「……子供がしゃれこうべのことを術師に漏らしたらしい……」
しゃれこうべ……?
聞き間違いでなければ髑髏……頭蓋骨ということだ。
伏黒もなずなも接触したのは言葉を話せない生贄の子供だけなので、話題になっている『術師』というのは虎杖達のことだろう。
一体何の頭蓋骨なんだろう……?
でも虎杖くん達が聞いてるのなら、きっと今情報交換してるはずだよね。
だったら伏黒くんが戻ってきた時に聞けばいいかな。
考えるより少しでも役立つ情報を聞き出すことが先、となずなは頭を切り替えて室内の会話に集中する。
「……だが、あの護衛には伝わらないのでは?」
「いや、万が一がある。術師に儀式を邪魔されるわけにはいかん」
「ではすぐにでも始めます」
信じられない言葉になずなは大きく息を呑んだ。
えっ!?
生贄の儀式を今から始めるっていうこと!?
考える間もなく、室内からは準備をするような音が聞こえてくる。
ど、どうしよう!?
渾にあの子を抱えてもらって逃げる?
……でも村長さんには儀式の邪魔をしないと言ってしまっている。
そんなことをしたら、呪霊が出てくる前に村から追い出される……!
……儀式のギリギリまであの子の傍にいて、呪霊の出現と同時に一緒に逃げるしかない!
なんとしてでも儀式に同席できるように交渉しないと……!