第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
足音は生贄の子供がいる部屋に入っていったようだ。
足音が止んで少し間があり、続いて子供の唸る声がした。
先程なずなが声をかけた時とは打って変わって不快を露わにするような声色だ。
その声に弾かれたようになずなは部屋に突入する。
「あの、何をしているんですか?」
「儀式の前に生贄の身を清めるのだよ」
「ゔぅ、あぁーっ!」
村長を筆頭にベッドを取り囲む村人が一斉になずなの方を向いた。
それによって村人達が何をしようとしていたのかが見えてくる。
ある者は水桶を持ち、別の者は白い手拭いを持っている。
生贄の子供は服を脱がされ、水に濡らした手拭いで拭き清められていたのだろう。
手拭いを持っている者の手は水の冷たさで赤くなっている。
子供にとってはいきなり大勢に囲まれて服を脱がされ、冷たい手拭いで身体を拭かれたということだ。
不快を示すように声を上げていたのにも納得できる。
「でもその子、嫌がってませんか?」
「部外者が口を挟むな。大体この部屋は白稚児様に捧げる贄が過ごす神聖な場所だ。オマエがいると穢れるかもしれん」
「わ、私はその子の護衛です……!」
「今は儂らがいるんだ、オマエは必要ない。出ていけ」
「そうだ、出ていけ」
「なっ!?」
出ていけ、出ていけと追い立てられ、抗議しようとするが、それも聞き入れられず、なずなはなす術もなく部屋から追い出されてしまった。