第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
内側から窓を開け、雨戸も開けようとするが、びくともしない。
「外から板でも打ちつけてあんのか……?」
鍵がかけられるような構造ではないので、単にものすごく建て付けが悪いという可能性もあるが、いずれにせよ普通には開けられなさそうだ。
「鬼切で雨戸を切ろうか?」
「そうだな、頼む」
なずなはうなずくと、音を立てないように気をつけながら鬼切で雨戸を切り取っていき、伏黒が外に雨戸が倒れないように慎重に立てかける。
外の景色はもう日が沈みかけだった。
急がないと集合時間に遅れてしまう。
伏黒が外に出ようと窓に手をかけたところで、入口の扉から物音がした。
ガチャリと錠前を外す音。
続いて複数の足音が聞こえてくる。
その音を拾ったなずなが慌てて伏黒の背中を押す。
「伏黒くん、行って!ここは私がなんとかするから!」
「駄目だ、オマエが残るなら俺も残る。虎杖達の所には玉犬を……」
「玉犬だけじゃ共有できる情報にも限りがあるでしょ?このチャンスを逃したら、次いつ外に出られるか分からない。私はきっと大丈夫だから……!」
生贄の護衛としてここに入ることになったなずなが不在になってはあちらに怪しまれる。
かといって、このまま彼女を残していくことも伏黒は良しとしなかった。
「渾を置いていくから、何かあればすぐにこっちに逃げろよ」
「う、うん、ありがとう。伏黒くんも気をつけて……!」
玉犬・渾を呼び、なずなに従うよう手早く指示を出し、伏黒は外に出て行く。
なずなは周囲に人の気配がないことを確認して切り取った雨戸をはめ込み、落ちないように窓を閉めて誤魔化した。
そして、白と黒が混じる渾の毛並みを撫でながら視線を合わせる。
「多分村の人達には渾のことは見えないだろうから、私の傍にいてくれる?」
わふ、と静かな肯定の声に勇気をもらい、なずなは足音がした方に歩き出した。