第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
「儀式が始まるまで生贄はこの宮で過ごす。オマエも護衛というからにはここを出ないように」
村長のその忠告はまともに耳に入らない。
なずなはそのくらい目の前の光景に衝撃を受けていた。
部屋の奥にある医療用ベッド。
そこに大小さまざまな管に繋がれた10歳程度の子供が横たわっていた。
子供はしきりに目を動かしてこちらを見ているが、顔や手足は動かせないようだ。
口から出しているのは「あー、うー」という音だけ。言葉も話せないということか。
「儀式は今夜10時から執り行う。それまで生贄を傷ひとつなく守るように」
遠くから聞こえた声にハッと振り返ると、村長は殯宮の扉に手を掛けていた。
なずなが慌てて駆け出す頃にはもう遅く、ガチャリを音を立てて扉を閉ざされる。
押しても引いても扉は動かない。
外から鍵を掛けられたようだ。
「閉じ込められた!?」
「落ち着け、他に出られそうな扉とか窓がないか探すぞ」
出入り口の扉の外には監視カメラがあったが、室内にはないので、伏黒も影から出てきた。
2人で手分けする程でもない広さなので、分かれることなく建物内を調べる。
建物自体は平屋建ての神社と意匠を合わせた木造だが、窓は全て雨戸で閉じられ、扉も自分達が入ってきた場所にしかなかった。
「……出られるところ、ないね」
「ああ、けど結界が張られてるとかもない。いざとなったら扉の鍵か雨戸を壊す」
「うん……でもこの中、人が住めるようになってたんだね。トイレとかキッチンとかあったし」
監禁されたのは予想外だったが、殯宮の内部は住環境が一通り備わっており、儀式まで過ごすのには全く問題ないのだ。