第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
同じ頃、虎杖と野薔薇はというと……
「……にしても、マーキング方法なんて誰に聞けばいいんだろ?やっぱ昔からの言い伝えに詳しそうなじいちゃん、ばあちゃんとか?」
民家が並ぶ通りを歩きながら、外に出ている村人がいないかと辺りを見回す虎杖が頭を捻る。
その隣であり得ないと野薔薇が顔を歪めた。
「バカね、そんなの保守派筆頭みたいなもんよ。知ってても絶対に喋らない」
「……まぁそうだよなぁー、釘崎は心当たりある?」
「順当に考えれば私みたいな人間よね」
「っていうと、口の悪い女子高生?……痛ェッ!」
「誰が不良女子高生だって?」
野薔薇は失礼極まりない答えを出した虎杖の脛を踵で蹴る。
硬いローファーの踵が思い切り入った虎杖は堪らず涙目で脛を押さえた。
「村の連中が頭おかしい奴ばっかだと思ってる人間よ。高校生だと絶対に外に出るだろうから、中学生以下。あとは生贄の人の身内とかね」
「……釘崎の地元ってそんなヤバい奴ばっかなの?」
「全員が全員そうってわけじゃないけど、ほとんどの奴らが異常なのは確かよ」
誰も彼もが他人ではいられない狭く閉じたコミュニティ。
よそ者が入ってこようものなら、異様な団結で徹底的に孤立させて追い出す。
思い出すだけで胸くそ悪い。
なんであんな連中のために私が心痛めてやる必要があるんだか。
今はマーキング方法を聞き出すことに集中、と野薔薇は頭を振る。
「アンタ、子供ウケは良さそうだし、外で遊んでる子供がいたら聞いてみるわよ」
「でも、子供に言ってちゃんと伝わる?」
「村人全員がやってることだから心当たりくらいはあるでしょ。村の言い伝えとかお祭りで何か必ずやってることとか」
とりあえず今は学校で授業を受けている時間だから、学校が終わった頃、下校時間を見計らって聞き取りをすることに決める。
この村の子供達がどこの学校に通っているかは伊地知が詳しそうだという結論に至り、2人は一旦村の外へ出ることにした。