第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
指定された時刻の5分前、公民館は閉鎖されたままだったが、入口の外で待っていると村長が現れた。
「約束通り1人だな。仲間はどうした?」
「村の外で警備を固めています。有事の際には村に入るかもしれませんが……」
「フン、その時はオマエ達が無能だということが証明されるな」
彼らは無能じゃない、と言い返そうものならどうなるか分からない。
村長の嫌味も任務と割り切って、なずなは聞かないフリをする。
「こちらだ。生贄の殯宮まで案内してやる」
村長は背を向けるとなずなの方を確かめずに足早に歩き出した。
なずなも撒かれないように注意して後をついていく。
殯宮とは、まだ火葬がなかった古代日本において、人が亡くなってから埋葬するまでの間、遺体を納棺して安置していた建物のことだ。
生贄は儀式の時までは生存しているはずなのに、そのような表現が使われているということは、やはり村人にとって生贄は呪霊への純粋な供物として扱われ、同じ人間として思われていないのかもしれない。
黙々と進むと、神社が見えてきた。
立派な鳥居があり、拝殿の正面にある大きめの広場には丸太を組んで作られた簡素な舞台のようなものが見える。
しかし村長はその鳥居は通らず、拝殿の脇にある建物に入っていった。
そこから建物内の一番奥の部屋へ進む。
「ここが殯宮だ。生贄は儀式が始まるまでこの部屋にいる。生贄にはくれぐれも手を触れるなよ。白稚児様は穢れをお嫌いになる」
通された部屋の中にいた人物を見て、なずなも影に隠れた伏黒も息を呑んだ。