第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
実際、過去にも少年院で恐怖心と戦いながら虎杖の帰りを待つと言ったり、交流会の作戦を立てる時に真っ先に東堂の足止めを申し出たり、八十八橋の任務でも難易度が上がるからと無理矢理帰そうとしたら、最後まで車に乗ることを拒み自分も手伝うと言い張った。
そのどれもが迷いのない言葉だったのだ。
なずなは普段の心優しくて少々気弱な態度とは裏腹に決めるべきことは即断するし、一度決めたことは納得する理由がないと譲らないところがある。
だから今回も彼女を護衛にと言われた時点で、こうなることはなんとなく予想できた。
「逆にあそこで俺が一旦保留にしてたら、俺達への不信感が一気に増してたと思うし、オマエが即答してくれて助かった」
ありがとな、と小さく笑う伏黒になずなの胸は一層高鳴った。
さっきは早く確実に呪いを祓うためと思ってうなずいちゃったけど、やっぱり大丈夫じゃないかもしれない!
たった一言でこんなにドキドキしてるのに、夜の儀式、呪霊が出てくるまで私の心臓保たないよ……!
急激に顔に熱が集まって、鼓動もうるさくなり、伏黒に聞こえてしまうんじゃないかと心配になる。
「渡辺?大丈夫か?」
「だ、大丈夫っ!」
急に両手を頬に当てて俯いたのが気になり、伏黒が覗き込もうとすると、なずなは慌てて顔を上げて返事する。
「そうか……?」
「ほ、本当に大丈夫だからっ!そ、それより、そろそろ時間なんじゃないかな!?」
時計を見ると正午まであと10分。
「そうだな。じゃあ手筈通りに俺は影に潜伏するから、渡辺は素知らぬ顔で行けよ」
「うん……!」