第40章 悔いのない人生を
398.
──もう、どれくらいの年月が経ったのか。
何度思った事か、それを考える。
いくら単調で慣れた作業とはいえ、この領域に縛られた女達を十人以下にした頃には、あれ以降誰一人来なくなった子孫の私の末裔が来ない事に、きっともうあの子は次の世代に意思を引き継いで私達とは別の場所へと逝ってしまったのだと私は思ってる。
その力尽きた年齢も原因も、あの子よりも先に逝きながら子供達の死の先まで、意識を保てる姿で強制的に生かされてるクセに現世に干渉が出来ないから、最期の様子も知れない私は寂しくも思う。
……もっとも、普通に生きる場合は親より先に死ぬことは無いでしょうし。しっかりしてたからお婆ちゃんにでもなって、家族に囲まれて亡くなったのだと現実を知ることの出来ないここでそう思えば、干渉出来ないのはもどかしいけれど、しっかりとしたあの子なら幸せな最期だったんだろうなって羨ましくもある。
──どんな名前の子供に希望を託したんだろうなあ…。どんな未来を見たのかなあ……。
長い時間を誰からも強制されることの無い、自分の意思で続ける作業も残りわずか。自分の足で動くことの出来る横幅の世界も墓石や棺桶、卒塔婆などが密集してる位置から離れた場所に点在してるもの達が霧の向こうに飲まれる瞬間を私は何度も見ている。
……母さんが、霧に囲まれた世界で「この状態で霧の向こうに進んだらどうなるんだろ?」と興味を持ち、果敢に霧へと突っ込んで行ったけれど結局は以前のように私の背後の方から帰ってきて、相変わらずループしてるってのは分かったけれど……。
その魂が物となってしまった目に見える物質が領域が縮小する瞬間。
私達が移動してもただループしてるように感じた癖に"物"と変質化した魂の形が霧に飲まれる瞬間。それは瞬時にその霧にぼやけた墓石などが下に飲み込まれるように動き、無くなってしまったという事。
それだけじゃなくて、見上げた気持ち悪いほどの朱に染まるオレンジの空にも最近は薄っすらと霞が掛かり始めた。いよいよここも終わりを迎えるのだと結果が見えてきた事を知れば、疲れなくても飽きても皆の尻拭いを私は続けようって気になる。
……とてつもない精神的苦痛だけれどね。