第40章 悔いのない人生を
そこに立つのは子供達、ではなく鎹一人。その私の末の娘の腹部がぷっくりと膨らんでいるという事に気が付いた。ここに満ちる呪力のようなものを感じとり、まるで花の中心部を見てしまう感覚を覚える。お腹から目が離せない、どうしてもそこを見てしまうという事は共鳴というか、引き寄せるような何かを感じるんだ…。
必ずといってそうとは限らないけど、これがこの領域内で死んだ者たちが孕んだ生者のお腹の子の性別が分かる理由なんだな、と。懐かしくも愛おしいものを感じて私は"ふたり"でやってきた鎹の元に自ら近づいた。
『鎹……、』
微笑んで、視線を下へと向けて。擦る手を見た後表情を見ればどんなものだ!と誇らしげな顔付きをしてた末の子。
悟が蒼空に五条家を託したように、私は私の血をこの子に繋いでもらおう。新たな世代の女児が強く逞しく育ってくれる事を祈りながらも、私の子供達ではなくたったひとりでやってきた鎹の決意を口にした。
多分、女の子の妊娠を報告に来たってだけじゃない。彼女なりに決意をし、現世と死者の溜まる領域との離別をする為に末の子だけでやってきたんだ、と感じてる。だからこそ、その言葉は私から言うべきなんだと唇を開く。
『もう、ここには来ちゃ駄目。死んだ者は死者の世界で。生きた者は自分の時間を生きて、自分や子孫の為に生きて……。
私達に振り回されちゃ駄目、あなた達の寿命がもったいないでしょ?』
呪術師としての"領域展開"が出来なくても充分呪術師としてやっていけるというのなら、先祖たちを縛り付けるこの空間を二度と頼らない、新しい世代を築いてくれれば良い。禪院から初代鎹へ、鎹から春日へ…みたらいから五条へと繋いだ命のリレー。
きっと彼女なら柔軟な思考で上手く生き残ってくれると信じてる。
鎹は悟を見た。それに釣られて私も悟を見る。
彼はもう、もう人間の形をしていないけれどただ側で見つめていれば隣に居てくれるような安心感を得るんだ。
……放っておけばぺらぺらと騒がしかった人がとっても静かなのはちょっとだけ寂しかったりするけれどさ…?
「──ん、私も今回、その話をするつもりで来たんだ…、」