第40章 悔いのない人生を
190センチの長身はもう二度とここには来ない。
お揃いの白髪…、太陽の光を受けると白銀に光り、影が僅かに紫を帯びたサラサラで綺麗な髪も、澄んだ空や夜の星空みたいな瞳は私をこれから先見つめてくる事はないし、安心する香りも体温もここには無いけれど……。
確かに悟だと感じれるものが側に居続ける、人間の寿命を過ぎても側で在り続ける幸せが形を変えてここに存在した。
……彼はここに来る前にやるべき事全てを済ませてきたんだって。
それはきっと嘘だとか私を不安にさせない為のハッタリでもない事実なんだろうし、文句を言いつつ仕事はきっちり済ます人っていう、普段言ってることはふざけてるけれどやる時は真面目にこなすって事をずっと側で生きてきた私は誰よりも良く知ってるんだ。
悟がここでの死を迎える為の領域展開。その時に持ち込まれた鎹の溜め込んだ呪力は、せっかく縮めていた前後左右の大地ある世界を一時的に広くしていたけれど。目に見える分成果も分かるものだからその広がる前の状態まで領域を再び狭くするまであまり時間は掛からなかったと思う。
……後は引き続き三十人からまた減らしていくだけ。
ふう、と癖になった意味のないため息を吐き、残された女の魂のひとりに狙いを定め、私よりも若い春日の女の肩に手を置く。その大地に足を着く面から下へ下へと呪力を逃がすように、更に下の世界を広げる力になれと末裔としての務めを果たそうとしてる。
──私、もう、だいぶ頑張ったよね……、生きていた時よりも頑張った。
春日の一族の女を二人減らし、三人目というところで乾いた世界に満ちる呪力。
今までの感覚からすると恐らくは悟の最期を見たあの時から二年とかそこらくらいだろう、と感じながらその方向へと体を向けた。