第40章 悔いのない人生を
397.
領域内の死んでも死にきれない女達を、魂を留める呪力から開放し、少しずつ減らしていく中で。
私は時々悟が最期まで居たその場所を眺めた。私の胸元までの高さの細い薔薇の木、枯れながらにしっかりと乾燥した大地に根付いている悟の命が変質化したもの……。
現実の世界のような薔薇の手入れ…、水やりなんて要らない、定期的に与えるべき肥料も要らず……ずっと夕日の照らす世界の日光さえも。
そもそも本来植物に必要である、手入れ時に与えるべき要素はいくら欲しくてもここには無いけれどさ?
あったとしてもゆっくりと進む世界で成長なんてするはずもないし、これ以上枯れる事もない。あくまでも"植物"ではなく"物"としてそこに在るから手入れなんて意味はない。
悟に死を返した後に彼が倒れた場所。魂がここに留められる時に急速に成長した、あの生き生きとした瞬間を思い出す。瑞々しく花開き、やがてその水分が失われていったドライフラワーなその青い薔薇は、始めの五輪がぽとぽとと地面に落ち、やがては地面に溶けるようにゆっくりと消えてしまった。分解とかじゃなくて、鎹が領域から還る時に悟に渡された花束や指輪みたいに消えるように、スゥ…と痕跡を残さずに……。
あれも現世に持っていったのかどうかは知らないけれど、ひとつだけ残された薔薇の花は乾燥しながらにしっかりと瑞々しい花だった頃と変わりなく色褪せずに付いてる。
……毟るなんて絶対にしないし、触ったらどうにかなってしまいそうだし、ただ眺めるだけ……。先祖たちが見に来る事は許しても、触れる事は私は決して許さなかった。
──だって、悟は私のモノだもん。
誰にも触れさせやしない。ずっとずっと、私とここに最期まで居てくれるんだから、今になって他の人に触れさせたくなかった…それが、例え私の母であっても…。
いつだって会いに来る時に花束を抱え、帰った時には現世に回収されるように消えていた青い薔薇もここではいつだって見られる。それも、特別なもの…何年も何十年も…もしかしたら何百年もこの場で寄り添ってくれる存在が居るのは嬉しい…!
ただ、毎年の結婚記念日と称したプロポーズの日付にはもう、彼と花束とリングのセットはここに来なくなってしまったけれど。
『(これからは、悟とずーっと、一緒なんだ……!)』