第40章 悔いのない人生を
「──ありがと、これで僕たちは、ずっと…これからも、一緒…だ」
悟が私側に倒れ込む。慌てて支えようにも急にその重さは軽くなったようで、何が起こったのかを見れば。そうだ……腹部を中心としてあちこち損傷してたんだと見て納得しては、その大地を夕日以上に染める液体も、彼の内側に収められていた、本来外気に晒されない赤い物の存在も理解して……。
その膝をつく着物の足元から、血液が掛かったのをきっかけとしてか、別の理由なのか。なにかの緑色の芽が出て早送りみたいににょきにょきと成長していく……。
それを、見守る中で成長を遂げた植物を私は知ってる。
幹に棘を着けたのを見て種類はすぐに分かった。薔薇だ、薔薇が枯れた土地に生えた。六個の蕾を着けた後に開く花は美しいを通り越した青で、その花達はすぐに枯れ、一輪だけ木に残されて五つの薔薇は地に落ちて……──。
動かない悟の身体を見て、ただ黙った息子や娘はその悟の上半身を支え、鎹を見て頷いた。
涙を流しながらも笑顔で努めようとしてる子供達が気を遣ってるのが痛々しく感じる。本当は、思いっきり泣きたいのを我慢してるんだ…。
「……それじゃあ、帰るね、お母さん」
『……ん、ありがとう。悟の我儘を聞いて。私の元で一緒にさせてくれて……』
こんな結末を許可した子供達を恨まない。むしろ、感謝をしてるけれど、今はただ一緒で在りながら悲しい。
鎹を中心にばいばい、と帰ってくと、動かなくなった悟の身体と花束、そして薬指のリングは共に消えていく……。
けれども、枯れた大地に芽生えた、一輪だけのドライフラワーみたいな青い薔薇だけは皆が帰っても、ずっとずっと、残ったままだった。