第40章 悔いのない人生を
『……わかっ…た、分かったよ、悟。降参だから…』
「……やった!ありがとっ」
片方に触れられていた頬。撫でるように動かし、嬉しそうに笑う悟は唇を私の唇に押し付ける。誰が見ていようと構わす行うキスに今更注意なんて出来やしない。注意しても、もう次から気を付ける事なんて無いのだから…。
『死ぬのに、やった!は流石にねえわ~…』
呆れる私に期待する悟。
最期の最期に言うべきことは携帯に遺してる。けれど一言伝えたいんだ。
『私のこと、愛してくれてありがとう』
「……なにを今更。これまでもこれからも僕はキミ一筋に愛すさ!」
──これからなんて、ないのにね。でも、悟が言うのなら無い未来の先…"これから"もあるのかも、なんて思えてしまうね。
子供達を見る。覚悟の決めた表情で何も言わずに少しバラバラに頷くみんな。
離れた位置に居た私の母を見る。にこ、と笑って小さく頷いて。
最後に悟を見上げた。少し身長の縮んだ悟……。彼はただ一言、「お願いね」といつものように笑っていて……。
花束を片手に抱えたままでもう片手を彼の頬へ。
彼から奪った死を彼に返す時。"極ノ番、生死ノ天秤"でたった一度吸い取った、死の経験を触れた手のひらからその笑顔の悟に返す…。
──本当は返したくない。でも彼の最期の我儘なのだから、私はそれを叶えなきゃ。
「……ん、ぐ…っ、」
笑顔のままに一瞬しゃくりあげるような動きをして。
ごぽっ、とその弧を描く唇から鮮血を垂れ流し、顎から枯れた土地を潤すようにぽた、ぱたた…っと溢れたものが止まらない……もう後戻りは出来ない。